夕暮れフェルマータ

 人生のマジックアワーに振り返る好きな本とか自然とか…。

ケリの擬傷と絵本『こちどりのおやこ』のこと

絵本『こちどりのおやこ』のこと

 『こちどりのおやこ』は、1968年に福音館書店から「こどものとも」シリーズの一冊として刊行された絵本です。川の中洲で子育てをしていたコチドリが、外敵であるイタチから、擬傷によって雛鳥を守ったエピソードを絵本にしたものです。

 絵本そのものはすでに手元になく、記憶だけで書いていますが、幼いながらにコチドリの不思議な習性に興味を惹かれた覚えがあります。

 徒らに擬人化せず、子ども向けながら、客観的に叙述されていたことが、却って強い印象を残したのかも知れません。

 なお、今、インターネットで調べたかぎりでは、出版元の福音館書店では在庫切れ(1986年に再刊されたようです)で、Amazon楽天市場で検索しても見つかりませんでした。但し、ある程度の歴史がある図書館なら所蔵している可能性は高いと思います。

 

「擬傷」とは何か?

 擬傷というのは、親鳥が、巣に近く外敵から卵や雛を守るために、わざと傷ついた振り(翼をばたつかせて「飛べない」アピールをする等)をして外敵の注意を引き、十分に巣から遠ざかったところで、パッと飛び去るという行動です。

 これは、巣に止まりたい欲求と危険から逃れたい欲求の相克から生まれた本能的な行動と考えられているようですが、本当にそうだったとしたら、実に合理的な解決法ではありませんか。

 我々が、人生上の困難に立ち向かう際にも参考になるかも知れませんね(笑)。

 

 さて、擬傷です。正直なところ、僕はこの絵本について明確に記憶していたわけではありませんでした。ただ、鳥の擬傷という習性だけは、頭の隅にくっきりと刻みこまれていたようです。

 

ケリの擬傷を実見する

 ケリという鳥がいます。茶色と白と黒のコントラストが印象的な中型の鳥で、しばしば休耕田に営巣します。田植えをする予定の水田に営巣することもあります(まあ、ケリには区別できませんからね)。そんな時は、わざわざケリの巣のところだけを避けて田植え機を操る農家の方もいたりして、大変だなあ、と思いつつ、微笑ましい気持ちにもさせられます。

 ケリは結構気が強く、特に子育て中には、カラスや人間などの外敵が近付くと、甲高い声で鳴きながら攻撃してきます。

 ところが、ある日、休耕田の間の畦道を散歩していると、いきなり前方にケリが飛び出してきました。羽を不恰好にばたつかせながら、よろよろと先へ進みます。僕は、あっ、これは擬傷だな、と直感しました。

 その当時は、ケリに擬傷という習性があるとは知りませんでしたし、例の絵本の記憶も忘却の彼方だったのですが、どこかで回路が繋がったんですね。

 その後が僕の性格の悪いところで…。僕はわざと立ち止まり、ケリが飛び出してきた休耕田の方に足を向けました。その時のケリの慌てようといったら…。

 どうしよう、どうしよう、という感じで行ったり来たり。あまり気の毒なので、騙された振りをして、後に付いていってやりました。

 そうしたら、教科書通りと言いますか、しばらく進むと、例の甲高い声を上げながら、堂々と空に飛び立っていったのです。しかも、念入りに、雛鳥たちの潜む休耕田とは真逆の方角へ、です。

 

バードウォッチング余禄

 バードウォッチングにはよく出かけます。とは言っても、多くの場合、それぞれの鳥の姿を確認するのが精一杯。彼らの生態の内容まで観察するのは難しいので、思いがけず、こういう出会いがあると、やっぱり嬉しいものです。

 ちなみに、ケリの雛はじきに親鳥と同じ羽色になりますが、成鳥の目が赤いのに対し、今年生まれの若鳥の目は黒いので区別がつきます。

 もし、ご近所で見かけたら、ちょっと注意して観察してみてください。

 

 それでは、今日はこの辺で擱筆させていただきます。

 最後まで読んでくださって、ありがとうございました。