夕暮れフェルマータ

 人生のマジックアワーに振り返る好きな本とか自然とか…。

沢登りでの「しくじり」を経験者が語ります Part2

 前回、同様のタイトルで、沢登り中に起きた「死ぬかと思った」エピソードについてご紹介しましたが、今回はその続編です。

 このところ、アウトドアにおける事故がニュースに取り上げられることが増えたように思います。

 これは事故そのものが増えたのか、ニュースとして取り上げられるケースが増えたのか、あるいは受け手である僕自身の主観なのか、統計的なことまでは分かりませんが、いずれにしても、素晴らしい自然に触れようと出かけた先で事故に遭うというのは、大変痛ましいことだと思います。

 具体的な失敗談をここでお伝えすることで、ほんのわずかでも、事故のリスクを低減することになれば…、と考え、続編を書くことにしました。

 ちなみに前回取り上げたのは、

①淵や滝壺を泳いで渡る際、引いたザイルが足に絡まって溺れそうになった。

②淵や滝壺を泳いで渡る際、底に沈んでいく水流に足を取られて溺れそうになった。

③急な増水で、小さな河原に張ったテントごと流されそうになった。

以上、3つのケースについてでした。

 その記事のラストで、落石や雪渓の横断についても書きたかった、と記した通り、今回はこれら2点についてお伝えします。

 

石は、不意に無言で落ちてくる

 落石という言葉には、2つのニュアンスがあります。1つは「落ちている石」、もう一つは「石が落ちてくる」ことです。

 前者は、特に山岳道路や林道を車で走行している際に注意すべき落石です。沢登りを始め、登山においては、原則として問題になりません。歩行中の人間にとっては、原則として、「落ちている石」と、別の理由でそこにある石との間に意味の違いはありません。

 今、敢えて、太字と下線を併用し、原則として を強調しました。では、原則以外とはどういうケースでしょうか。

 沢登りで足場にすべきなのは、上に乗ってもグラつかない、安定した石です。落石に限りませんが、足を乗せるとグラグラする、いわゆる浮石は避けなければいけません。

 逆に言うと、新参者の落石は、まだ収まるべきところに収まっていない場合が多く、結果として浮石化しやすいのです。しかも、岩肌を剥がれて落ちてきたタイプの場合、角が粗く、手をつくなどした際に怪我しやすい、という難点もあります。

 渓を歩き慣れてくると、ごく自然に足を乗せる石を適切に取捨選択するようになりますが、それでも注意するに越したことはありません。

 一般の登山でも同様です。場合によっては、すでに落ちてしまった石も悪さをする、ということを覚えておいてください。

 

 さて、続いて、2つめのケース。今、まさに落ちてくる石について、です。これは、怖いです。崖を攀じ登っている時など、音もなく耳元を過って、谷底に吸い込まれていきますから。時間差で、カランッ、ゴロゴロ、なんて音が下から聞こえてくるんです。まあ、これを完璧に回避するのは難しいので、できるだけリスクを抑えるのが肝要でしよう。

 極論すれば、行かなきゃいいのですが、それでは話が終わってしまいます。でも、真実なんですよねぇ。ここは現実的に、渓には入るが、落石を生じやすい場所には近づかない、というスタンスで考えてみましょう。

 落石が起こりやすい場所、というのは以外と簡単に分かります。落石が頻繁に起こる場所は、遠目に見ても、そこに散乱する石の色合いとか風合いが違いますから。長年、水に洗われて丸くなった石たちと違って、粗々しています。「できれば近づきたくない」的な危険な香りをプンプン匂わせていますので、渓を歩く際には、足元と同時に、前方にも注意を払い、落石が多い箇所を避けるようなルート取りをする必要があります。

 そうは言っても、どうしても通らなければならない場合が少なくありません。そういう場所は、岩と岩の間をすり抜けるような状況も多いので、ヘルメット手袋(軍手も可。但し、保護という意味では若干弱い)は必携です。もちろん、着用しなければ無意味です。

 それから、意外に多いのが、人為的な落石。た滝の高巻きなどでよくあります。草付きを闇雲に這い上がっていると、つい足元がおろそかになって、草間の浮石を蹴り落としてしまいます。

 滝の場合は、(確保する場合は別として)一人の登攀が終了するまで、後続は安全なところで見守ることが多いでしょうが、高巻きの時は、次々に登る場合もよくあるので、注意が必要です。万一、落石を生じてしまったら、「ラクーッ」などと叫んで注意を喚起します。また、そこは総合的な判断になりますが、敢えて団子状態で登るという選択肢もあり、ですね。

 

ちょっとした渓でも、雪渓は侮れない

 最初にお断りしておきますと、僕ごとき、雪渓の処理について申し述べる立場にはありません。スノーブリッジに行く手を阻まれ、上を行くか、くぐり抜けるか、などと逡巡するような渓には行ったことがないからです。それでも、やっぱり怖い思いはしました。それをご披露するだけです。

 現場は、初級者向けながら、滑滝(なめたき)の美しさで人気の高い、山梨県の釜の沢源流です。

 源流釣りなら、雪を踏み締めて遡行し、巨大な雪のブロックの間から毛鉤を落としたり、ごく小さなスノーブリッジを横目で見ながら、その脇を巻き登ったりしたことはありますが、本格的に雪渓の上を歩いたことはありませんでした。

 上述の釜の沢遡行の際も、中流域までは残雪の気配など全くありませんでした。途中、渓の中で1泊し、翌日、快調に遡行を続け、源流にかかる結構なら落差の滝を超えたところに、その雪渓はありました。まあ、雪渓と言っても、細長く上流に向かって突き上げる谷筋に縒れた糸のような痩せた雪が詰まっている程度ではあったのですが。

 僕はあまり気にせず、右岸(下流から見れば流れの左側)の岩が露出したラインにルートを取りました。理由は簡単で、滝の左側を攀じ登ったからです。本来のルートとしては左岸に移りたかったのですが、さすがに、滝の落ち口近くでトラバース(横切ること)するのは避けたかった。

 ところが、行けども行けども雪渓は途切れず、見上げると更に斜度を増して霧の中に消えています。困りました。どこかでトラバースしなければなりません。滝の落ち口からはすでに100メートル近く登っています。振り返ると、問題の雪渓が、いびつなスキーのジャンプ台のように、例の滝の落ち口でぷっつり切れ落ちているのが見えます。

 怖かったです。幸い、ストックは持っていましたが、足元は合成フェルトを貼ったフラットな渓流シューズです。アイゼンなんかありません。ストックと渓流シューズのつま先で足場を切りながら、慎重にトラバースしましたが、生きた心地がしませんでした。

 慣れた方には何でもないことかもしれませんが、僕と同じようなレベルの方もおられると思い、エピソードとして書かせていただきました。

 まあ、この件については、対策と言っても、事前に雪渓の存在を予見し、雪渓が脅威とならないルート選択をする、ことに限るのですが。

 くどいようですが、本格的な雪渓処理については他書をご参照ください。スノーブリッジやクレバスを含め、注意点がいろいろと記載されています。中には、雪渓の端から懸垂下降で渓に降りる方法まで書いてあるものも…(^_^;) 次元が違いますね。

 

 気がつくと、前回を超えた長文になってしまいました。他にも、害虫対策など、書いておきたいことがありますが、今日はここまでにします。

 最後まで読んでくださった方、いつもに増してありがとうございました。

 

yuugurefermata.hateblo.jp