夕暮れフェルマータ

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ちゅうちゅうは眠り姫か?          絵本『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』を読む

 本書の梗概 & 作者の紹介

いたずらきかんしゃちゅうちゅう (世界傑作絵本シリーズ)

いたずらきかんしゃちゅうちゅう (世界傑作絵本シリーズ)

 

  『いたずら きかんしゃ ちゅうちゅう』は、1942年に『ちいさいおうち』でコールデコット賞を受賞したアメリカの絵本作家、バージリア・リー・バートンさんの最初の絵本作品です。原題は『 CHOO CHOO』。これは機関車の走行音を表す擬音で、日本語に訳せば「シューポッポ」てな感じです。

 『いたずら きかんしゃ ちゅうちゅう』は、1942年に『ちいさいおうち』でコールデコット賞を受賞したアメリカの絵本作家、バージリア・リー・バートンさんの最初の絵本作品です。原題は『 CHOO CHOO』。これは機関車の走行音を表す擬音で、日本語に訳せば「シューポッポ」てな感じです。

  それにしても、この邦題はいいですね。もちろん、この絵本と出会った頃には、ちゅうちゅう=シューポッポであることなど知る由もありませんでしたが、とにかく主人公のいたずらきかんしゃにはぴったりのネーミングだな、と子ども心にも感心した記憶があります。

 

あらすじ & ラストシーン

 ちゅうちゅうは、客車や貨車をひっぱって、小さな町の小さな駅と大きな町の大きな駅の間を行ったり来たりしています。けれど、そんな毎日に嫌気がさしたちゅうちゅうは、客車や貨車を置き去りにして走り出してしまいます。

 いつもちゅうちゅうを大切に世話していた機関士のジムや機関助士のオーリー、車掌のアーチボールトは、最新式の汽車(ディーゼル車に見えます)の助けも借りて、ちゅうちゅうの後を追います(途中、オーリーとアーチボールトは、ちゅうちゅうが落とした炭水車の救出のため下車します)。

 一方、ちゅうちゅうは猛スピードで畑や街中を走り抜けます。上がりかけた跳ね橋をジャンプして飛び越え、町を抜け出したちゅうちゅうは、さらに田舎へ向かいます。とある分岐で左手の線路を選んで進んでいくと、それは古い廃線でした。しかし、跳ね橋を飛び越えた時に炭水車を落としてしまったちゅうちゅうには、もう燃料がありません。とうとう、暗い森の中で動けなくなってしまいました。

 その頃、最新式の汽車に乗り込んで、ちゅうちゅうを追いかけてきたジムは、ようやく、ちゅうちゅうを発見します。無事帰ってきたちゅうちゅうを見て、オーリーとアーチーボールトも大喜び。ジムと三人で踊り出してしまいます。

 帰る途中、ちゅうちゅうはジムにこう言います。「わたしは、もう にげだしたり しません。にげても、あまり おもしろいことは ないんですもの。これからは、たくさんの ひとを いっぱい のせた きゃくしゃや、にもつを つんだ かしゃを ひいて、ちいさな まちから おおきな まちまで、いったり きたり、いったり きたりしますよ」。

 

本書の魅力 & 若干の疑義 

 本書の魅力の一つは細部までこだわったそのデザイン性です。表紙と裏表紙は繋がっていて、裏表紙には、表表紙で颯爽と走るちゅうちゅうを必死で追いかけるジムたちの姿を見ることができます。ちゅうちゅうの吐き出す煙や線路がスピード感あふれる筆致で描かれ、明るい冒険活劇の雰囲気を盛り上げています。

  ただ、上記のような解釈には、若干腑に落ちない点があるのも事実です。それは、本書の肝とも言える冒険的な楽しさと、ちゅうちゅうが最後に口にした「反省」との矛盾です。

 読者である子どもたちは、ついさっきまで、冒険に旅立ったちゅうちゅうを自己と同一視しながら、物語の中に入り込んでいたはずです。それなのに、最後の最後に、ちゅうちゅうからこんな「反省の弁」を聞かされたら、いきなり梯子を外されて、自分だけ取り残された気分にならないでしょうか。

 うーん、正直なところ、よく分かりません。この作品が元々は作者の娘さんのために作られたということ、さらに、作中でちゅうちゅうを呼ぶとき「she(彼女)」という代名詞を用いていることから考えると、もしかしたら、原書は邦訳で読むとき以上に女の子向けの色合いが強い絵本なのかも知れません。だとすると「女の子なんだから、いくらなんでも最後に森の中で動けなくなってしまうような無鉄砲な冒険はしちゃいけませんよ」というメッセージが込められている可能性も否定できません。

 

ちゅうちゅうは眠り姫か?

 確かに「女の子向け」というキーワードで解釈し直すと、この絵本には、なるほど、と頷ける場面が少なくありません。ちゅうちゅうとジムたちの関係からは娘と父の理想化された姿が透けて見えますし、物語のクライマックスで突然現れて、ジムにちゅうちゅうの行先を教える老人も、性を換えた魔女のように思えてきます。しかも、ちゅうちゅうは自らの陥った窮地に対して全くもって無力であり、ちゅうちゅうを救ったのは、結局、彼女を大切に思う大人たち(全員が男性)だったのです。

 これって、ほとんど『眠り姫』じゃないですか。眠り姫は決してやんちゃな女の子ではなかったでしょうが、ひとり城内を探索(=冒険)した挙句、塔のてっぺんの小部屋を尋ね、そこで紡錘(つむ)に刺されて眠りに落ちてしまうんですよね。そして、彼女を目覚めさせたのは、彼女を求めて茨の城に分け入った勇敢な王子(もちろん男性)だったのですから…。

 ちょっと深読みのし過ぎでしょうか。そうだ、そうだ、という声が聞こえてきそうですが、この辺りの解釈については、もう少し、自分の宿題にしておきたいと思います。

 

yuugurefermata.hateblo.jp