夕暮れフェルマータ

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絵本『しずかなおはなし』の静かな世界

作者の紹介 & 本書の梗概

  『しずかなおはなし』は、ソ連邦(現ロシア)の絵本。本国では1956年に出版されています。文章を書いたサムイル・マルシャークさんは小説・詩・翻訳など、文学全般に優れた業績を残した方で、彼の名をつけた小惑星もあるとのこと。また、絵を描いたウラジミル・レーベデフさんもソ連邦の絵本画家として先駆的な立場で活躍された方だそうです。

  真夜中に家族揃って散歩に出かけたはりねずみの一家が、途中、番(つがい)の狼に襲われますが、丸くなって難を逃れ、無事、森のわが家に帰り着くまでの物語です。

 本書の邦訳版が刊行されたのは1963年。僕が初めてこの本に触れたのは、母による読み聞かせを通してでした。 

 

本文は子守唄的韻文?

 今回、ほぼ五十年ぶりに読み返して気づいたのですが、『しずかなおはなし』の文章は、散文というより、詩に近いように思います。僕にロシア語で書かれた原文を解する力はありませんが、翻訳された日本語からも、それを感じとることができます。

 具体的な根拠を幾つか挙げると、まず、センテンスに体言止めが多い。対句的な表現が頻出する。翻訳された日本語に七五調的なリズムがある(これは恐らく、原文が有する韻律を訳者が尊重されたためでしょう)。また、ほとんどの段落が四行分けになっていて、それが詩でいうところの「連」に酷似している、ということも根拠の一つになるでしょう。

 さらに、状況証拠として、作者のマルシャークさんが児童向けの詩を盛んに書いていたこと、特に晩年には詩の制作に力を注いでいたことを付記しておきます。マルシャークさんは1964年に76歳で亡くなっていますので、『しずかなおはなし』は晩年の作品と言って良いと思います。

 物語の舞台といい、詩的リズムを内在した文章といい、母親がわが子に向かって子守唄代わりに読み聞かせる絵本としては、ほぼ完璧ですね。しかも、幼い子どもたちにとって最も安心できる「行きては帰る物語」の鉄則をしっかり守っているのですから、読み聞かせられる子どもの方も、文字通り安心して眠りにつくことができるというものです。

 

作品の世界観を視覚化した挿絵の魅力

 今回はあまり触れられませんでしたが、レーベテフさんの絵も素晴らしい。月下の森そのものの茫洋としたタッチで、マルシャークさんの表す世界観を見事に視覚化しています。同じ秋とは言いながら、日本の紅葉散り敷く箱庭のような秋のイメージとは一味違った凄みのある季節感が新鮮ですし、ほとんど表情の読めないはりねずみと若干ながら表情のある狼の対比にも、妙なリアリティーがあります。

 

静かなはりねずみの親子に、ありがとう!

 母が亡くなってから30年近くになりますが、母の声として最もはっきり憶えているのは、本書を読み聞かせてくれたときの囁き、です。それだけでも『しずかなおはなし』に感謝しなくてはいけませんね。

 

しずかなおはなし (世界傑作絵本シリーズ)

しずかなおはなし (世界傑作絵本シリーズ)

 

 

yuugurefermata.hateblo.jp