夕暮れフェルマータ

 人生のマジックアワーに振り返る好きな本とか自然とか…。

与謝蕪村の一句鑑賞 その参

夏山や京尽くし飛(とぶ)鷺ひとつ

 蕪村は同工異曲を恐れない。芭蕉が、自身の作品である「白菊の目に立てて見る塵もなし」との表現上の重複を嫌って、死の三日前に「清瀧や波に塵なき夏の月」の句を「清瀧や波に散りこむ青松葉」と改作したのとは大きな違いです。上掲句について言えば、同じ作者の「ほとゝぎす平安城を筋違(すぢかひ)に」との類似がすぐに気付かれるところです。

 但し、「ほとゝぎす…」の句が、ほとんど歌語とも言える「ほとゝぎす」の語を用いて、伝統的な美意識と聴覚に強く訴えかける作品となっているのに対し、「夏山や…」の方は、夏山の「青」葉と鷺の「白」という、名高い漢詩*1を彷彿とさせる鮮やかな色の対比により、視覚的な美しさを前面に押し出しています。

 蕪村は同工異曲を恐れない、と書きました。彼の心底には、幾つもの「美」のエッセンスが眠っていて、それが外界からの些細な刺激によって直ちに呼び覚まさるのでしょう。だとしたら、同系統の「美」のエッセンスを基にして形作られた作品が相似たものになるのは当然です。むしろ彼は、自らの胸中にひっそりと息づく「美」のエッセンスのひとつひとつを、具体的な景物に託して、あらゆる角度から描き切ることに生涯をかけていたのかも知れません。

 

yuugurefermata.hateblo.jp

 

yuugurefermata.hateblo.jp

  

*1:中国の詩人、杜甫の「絶句」江碧鳥愈白/山青花欲然/今春看又過/何日是帰年