夕暮れフェルマータ

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野鳥 一期一会/徳山ダム周辺のアカショウビン篇

鳥との出会いは一期一会

 ある程度の期間、バードウォッチングを続けていると、「一目惚れ」する機会が減ってきます。ホンモノに会う前から、図鑑やインターネットなどで多くの情報を仕入れてしまうからです。

 これは勉強熱心なバードウォッチャーほどハマりやすい陥穽のひとつです。事前に詰め込んだ知識が多すぎて、初見の感動が薄れてしまうのです。写真を撮って発表しよう、といった意欲のある方ならともかく、人知れず山野を彷徨し、イロトリドリの鳥の姿を双眼鏡で捉えてはひとり悦に入っているバードウォッチャーにとって、「一目惚れ」の機会を自ら摘み取るこうした行為は、愚かとしか言いようがありません。一目惚れなんて、人間相手であっても一生に一度あるかないかのハプニングなのに!

 ただ、ある程度の知識がないと、出会った鳥が何であったのか分からない、という根本的な問題にも突き当たるため、その調整がなかなか難しいのではありますが…。そういう意味で、僕とアカショウビンとの出会いは、予習とサプライズのバランスが、まさに絶妙だったと言えるでしょう。

 

アカショウビンとの出会い

 予兆はありました。渓流釣りからの帰途、ダム工事が佳境に入っていた徳山ダム*1上流の林道を車で走っている時、一瞬、フロントガラスの端を朱色の鳥影が掠めたのです。すでに『徳山村史』等で、当地にアカショウビンが棲息していることは知っていました。しかし、滅多に出会える鳥ではないことは十分認識していましたし、はっきり姿を確認できたわけでもなかったので、この時点ではまだ、「出会った鳥リスト」にアカショウビンを加えることはできませんでした。しかし、可能性はある。そう思っていたのです。

 その後、ダム工事の進展に伴い、ダムの上流に入ることが難しくなったこともあり、僕は、ダムの下流揖斐川本流に流れ込む支沢(原谷・尾蔵谷など)にメインの釣り場を移しました。

 あれは初夏のとある日曜日。その名の通り、明るく開けた渓相を見せる原谷を釣り上がっていた僕は、大きな釜を持つ滝の右手を巻き、この谷には珍しく仄暗い樹林に囲まれた流れに沿って、さらに遡行を続けていました。

 竿を大きく振り上げて毛鉤を投げる和式の毛鉤釣りオンリーの釣師である僕にとって、両岸から樹々の枝が被さる渓相はほとんど釣りになりません。ここは潔く諦めて、遡行に専念します。と、仄暗い流れの奥処から、どこかもの寂しい鳴き声が聴こえてきたのです。

 キョロロロロ、キョロロロロ、キョロロロロ…。

 事態を把握するのに数秒かかりました。でも、間違いありません。アカショウビンの鳴き声です*2。僕は慎重に歩を進めました。前方を注視し過ぎる余り、足元がおろそかになり、何度も深みに填(は)まります。仄暗い流れのところどころに木漏れ日が落ち、そこだけスポットライトに照らされたように明るんで見えました。

 キョロロロロ、キョロロロロ…。

 大丈夫。彼はまだそこにいます。一際大きい岩を乗っ越し、顔を上げると…。いました! アカショウビンです。流れの上に大きく張り出した枝に、こちらを向いて止まっています。僕はそのまま動けずにいました。その間、十五秒ほどだったでしょうか。彼は不意に羽ばたくと、僕の頭上を越えて、下流の方へ飛び去っていきました。

 キョロロロロ、キョロロロロ…。

 彼が姿を消した渓畔林の奥から、遠い木霊のように、あのもの寂しげな鳴き声が聴こえてきました…。

 最後に、アカショウビンを追った島田忠さんの写真集を紹介しておきましょう。美しい写真はもちろんのこと、分かりやすい解説も魅力的な一冊です。

アカショウビン―火の鳥に出会った (日本の野鳥)

アカショウビン―火の鳥に出会った (日本の野鳥)

 

  

yuugurefermata.hateblo.jp

 

*1:岐阜県揖斐川上流に造られた、わが国最大級のロックフィルダム。平成20年竣工。

*2:上述したアカショウビンらしき鳥影との遭遇の後、僕は、鳥の鳴き声を収めたCDを聴いて、アカショウビンの鳴き声を確認しておいたのです。