夕暮れフェルマータ

 人生のマジックアワーに振り返る好きな本とか自然とか…。

万葉集

青山を横切る雲のいちしろく 『万葉集』一首鑑賞

前説:『万葉集』は序詞競演の場 序詞(じょし / じょことば)については、当ブログの過去記事でも取り上げていますので、詳細はそちらに譲りますが、ごく簡単に申しますと、和歌の中の特定の言葉(その歌の主題に関係する大切な言葉であることが多い)を導…

挽歌の伝統と余明軍の哀悼歌

「挽歌」とは何か 「挽歌」は『万葉集』の三大部立の一つ(他の二つは雑歌と相聞)としてよく知られています。元々は、中国において、葬送の際、柩車を挽く役割の者が歌った歌をそう呼んでいたようですが、『万葉集』においては、広く死者を哀悼する歌を指し…

『万葉集』秀歌鑑賞 大伴家持の「春愁三首」

大伴家持と言えば、『万葉集』後期の代表的な歌人で、詳細は不明なものの、『万葉集』の編纂にも深く関わった人物として知られています。古来、大伴氏は軍事の分野で朝廷に仕えてきた名門でしたが、蘇我氏や、それに代わる藤原氏が台頭するに従って、徐々に…

和歌史における柿本人麿の特異性について考える

『万葉集』の、いや、和歌の歴史における最高位の歌人として、柿本人麿の名を挙げる人は多いでしょう。素人ながら、僕もその意見に賛成です。 もちろん、千数百年に及ぶ和歌史の中で、新たな展開のきっかけを作った人物は少なくありません。よく知られた春愁…

『万葉集』の一首鑑賞・その四 「信濃なる…」

信濃なる千曲(ちぐま)の川のさざれ石(し)も君し踏みては玉と拾はむ 『万葉集』巻十四所収の東歌*1。 歌意は「信濃の国にある千曲川の小石も、あなたが踏んだら、私は玉と思って拾いましょう」*2。 枕詞も序詞も使わず、恋する乙女の純情可憐な思いを、ご…

『万葉集』の一首鑑賞・その参

かなし妹をいづち行かめと山菅のそがひに寝しく今し悔しも 上掲歌は、『万葉集』巻十四に収められた東歌、全二百三十首の中で、唯一「挽歌*1」として分類されている作品です*2。 それではまず、今回取り上げた作品の歌意を確認しておきましょう。 「愛しい妻…

『万葉集』の一首鑑賞・その弐

わがやどの夕陰草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも 『万葉集』巻四に収められた「笠女郎の、大伴宿祢家持に贈りし歌二十四首」の中の一首です*1。 歌意は「私の家の庭に生えている夕暮の物陰の草に置く露のように、消え入らんばかりに無性にあなたのこと…

『万葉集』の一首鑑賞 その壱

君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ 『万葉集』巻十五冒頭に収められた遣新羅使人の贈答歌の中の一首*1。天平八年六月、当時、関係が悪化していた新羅国に向けて難波を発った一行は、翌九年三月、予定を大幅に遅れて帰朝しますが、新羅国と…

『万葉集』 東歌の魅力発見!

『万葉集』は難しい? 額田王と大海人皇子の歌 『万葉集』に関する本はそれなりに読んできました。もちろん、ほとんどは一般向けの啓蒙書ですが…。但し、この時代の作品には不詳な部分が多すぎて、記事にするのはつい躊躇してしまいます。 例えば、超有名な…